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【読書記録】なぜ今、私たちは未来をこれほど不安に感じるのか?〜数千年に一度の経済と歴史の話〜

大学の経済学部に通う女子大生・御影絵玲奈と、
大学の不人気ゼミの内村教授(数理経済学者)。
この二人の会話という形式で、現在の日本経済についてとてもわかりやすく書かれています。

次の章から成り立っています。


  • プロローグ:不人気ゼミの数理経済学者
  • セミナーNo1:『進撃の巨人』はなぜ売れたのか?
  • セミナーNo2:これからは『鉄腕アトム』が人類を不幸にする
  • セミナーNo3:『セックス・アンド・ザ・シティ』のキャリーが気づいたこと
  • セミナーNo4:人類はもう”賢者の石”を使い果たした
  • セミナーNo5:「不安」の正体
  • セミナーNo6:日本人にしかできないこと
  • 特別授業:中央銀行はインフレをつくれない
  • あとがき

プロローグ:不人気ゼミの数理経済学者

これは物語の主人公二人の紹介など。
ただ、ここでキャラ設定されている絵玲奈って、
本当にいそうなリアルなキャラです。
人気ゼミにことごとくはじかれ、余った不人気ゼミに入らざるを得なくなった絵玲奈。
そのゼミの教授・内村は、およそ教授らしくないです。
絵玲奈に「おもしろくて」「素人にもわかりやすくて」「就活に役立つような」授業を要求される内村。
要求された内容の授業を約束するので、ゼミを辞めないで欲しいという、
とても弱気なキャラ。
大丈夫か〜と心配になるほどです(^_^;)

その内村が絵玲奈に出した宿題は、
「次回までに『進撃の巨人』を読んでくること」
絵玲奈でなくてもびっくりします。

セミナーNo1:『進撃の巨人』はなぜ売れたのか?

売れるマンガは世の中の一般の人たちの心理を表す鏡でもある。
例として、

  • 1950年代〜60年代の高度成長期に流行った、『鉄腕アトム』
  • 1970年代後半に流行った、『サーキットの狼』

が挙げられています。
そして、『進撃の巨人』。
内村はこのマンガの流行を、不安に怯える現代社会を投影しているのではと述べます。

モノにあふれていて、贅沢を言わなければ平和に暮らしていける。
けれども、本当にこのままで大丈夫なのか?
将来、巨人のような何かが襲ってくるのではないか。
そういう、漠然とした不安
巨人から身を守るための壁の内部にある、格差や既得権益への不満。

そして、この漠然とした不安の原因を、
今までとは全く違う新しい時代にいるのに、今まで通りに生きようとする既得権益層が世の中を歪めているから
だと結論づけています。

そしてこの既得権益層とは、政治家やお金持ちではなく、
普通のおじいさん・おばあさんたちだとも。

その他、少子化の原因や年金制度の問題についても触れられています。

そしてここで絵玲奈に出される宿題は、
「ブラック・アイド・ピーズの曲を何曲か聞いてくること。」


The Black Eyed Peas - I Gotta Feeling - YouTube

私、ここで初めてブラック・アイド・ピーズを知りました。

セミナーNo2:これからは『鉄腕アトム』が人類を不幸にする

ブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アムの予言。
「いずれ音楽家自体がいなくなる」。
テクノロジーの進歩により、
コンピューターがユーザーのその時の気分を計算し、それに合った音楽を作曲・演奏してくれるようになると。

このような科学の超進歩が、少子化の原因だと内村はいいます。
産業革命のときのような「物理の革命」では、ある職業が失われても、別の職業につくことができた。
(例:蒸気機関車が生まれ馬車の御者は仕事を失ったが、代わりに機関車をつくるという産業が生まれ、多くの雇用が発生した)

ところが、デジタル革命は「情報の革命」。
人間そのものを機械が代替していく革命なので、新しい雇用が生まれない。
知識や技能がない人が切り捨てられる可能性が高い。
教育で言えば、
高度な教育を受けられる子どもは仕事につくことができるが、
そうでない子どもは切り捨てられる可能性が高い。
このことが少子化に拍車をかける可能性がある。

政府の少子化対策が現実に沿っていない原因がよく分かります。

少子化が進むのは仕方のない話なので、無理やり子供を増やそうとするのではなく、それに社会をどう合わせていくかが本当は大事なのです。現状のようなおじいさん・おばあさん層におカネをかけていくのではなく、未来ある子供たちに高度教育を施すための教育コストを社会でどう負担するのかという議論をすべきですし、現状のようなホワイトカラーを大量に作るためにできた教育制度も見直していく必要があるのです。こういう本質的な政策努力をしないと、ますます人は《漠然とした不安》に襲われて極端な少子化が進むという悪循環が発生していくでしょう。

絵玲奈への宿題は、

  • 『セックス・アンド・ザ・シティ』を見ておくこと。
  • 『シェア<共有>からビジネスを生みだす新戦略』を読むこと。

セミナーNo3:『セックス・アンド・ザ・シティ』のキャリーが気づいたこと

  • キャリーはアメリカの物質消費文化を表す古いモデル。今は、必要なモノを「シェア」する考え方が「カッコいい」という価値観が生まれている。
  • ネットの世界では、カーシェアリングやAirbnbのような過去では考えられなかったビジネスが成功し、”シェア”が広がる《新しい時代》が来ていることを表している。

”需要”がなかなか生まれてこない《新しい時代》を迎えていることが、デフレの原因だとあります。

これまでの経済の病気の治療法が全然役に立たなくなり、困り果てることになっているわけです。

絵玲奈への宿題は、「鋼の錬金術師」を読んでおくこと。

セミナーNo4:人類はもう”賢者の石”を使い果たした

  • 資本主義とは、賢者の石(=労働力)の奪い合い
  • 後進国は先進国(=高度化された国)のための生産地とされている。
  • 後進国は先進国から猛烈な資本投下をされ開発された結果、社会や経済がめちゃくちゃにゆがんでしまっている。(低開発化)
  • 世界システム:”中核”(=先進国)と、それに従属する”周辺”(=低開発化された地域)との分業体制。
  • ”周辺”は、一時的に経済が発展しようとも、”中核”にはなりえない。それは、”中核”が支配しやすいよう、社会秩序を壊してしまっているから。
  • ヨーロッパ諸国は、宗教対立や教会勢力のためにアジア諸国よりも文化・文明的に遅れていた。
  • 唯一優れていた軍事力でアジア諸国を支配し、”周辺”とすることで発展したヨーロッパ。そのしわ寄せが、中東の混乱に現れている。
  • 賢者の石を使い果たした現在、世界システムには限界がきている。

私はこの章が一番面白かったです。
経済を基点とした世界の歴史がとてもわかりやすく書かれています。

セミナーNo5:「不安」の正体

  • 成長しない《新しい時代》を迎えようとしているのだから、社会をそれに合わせて変える必要がある。
  • おじいさん・おばあさんたちは、自分でも気づかないうちに既得権益層となってしまっている(年金の支払いなど)
  • リーマン・ショックは実は、おじいさん・おばあさんが引き起こした
  • 新しい時代にいるにもかかわらず、これまと同じように生きようとするおじいさん・おばあさんが社会に歪みをもたらしている。
  • 政府が根本的な解決を先延ばしにした結果が既得権益層を作り出してしまった。
  • 日本では、赤ちゃんが生まれた瞬間に800万円の借金を背負っていることになる。
  • おじいさん・おばあさんが赤ちゃんに借金を押し付けて養ってもらっている状況。

セミナーNo6:日本人にしかできないこと


「略奪して成長する世界システムが稼働するなかで、日本人は、成長しないけれどみんなが豊かに暮らせる江戸時代のような平和な時代を250年間も実現できた国民なんです。我々の先祖が、どういう思いでこのような”日本人”を、世界システムの中で残そうとして苦労してきたのかをちゃんと思い出せば、既得権益にしがみついて若者の夢を壊し、赤ちゃんに養われるようなわがままは、恥ずかしくてできないこと思うんですよね。」



若くてどんどん成長していた時代を過ぎて、年をとって成熟した時代に入っているわけですから、先進国の日本は”量よりも質”に重点を置かなければいけないのです。


日本人の「モラルの高さ」を大事にし、フロー経済からストック経済へ考え方を変えていく必要がある。
そう述べられています。

最近、両親世代の人たちと話していると、「それは違うなあ」と思うことが多いです。
昔の高度成長期を懐かしみ、それを知らない世代を気の毒がる。
物を持つことに対する考え方。
お金に対する考え方。
生活レベルに対する考え方。
そして、政府の少子化対策も、なんだかなあと思うことが多い。
そんな漠然とした違和感の正体が、この本を読んで少し見えてきました。

大雑把になのでしょうが、経済のシステムがわかり、面白かったです。
そして、よくぞ書いてくれました!と思える本でした。